鎌倉古道(東京都)2013.12.03 /nature
10月中旬に入って30℃を超える夏日を記録し、その1ヶ月後には木枯らしが吹いた今年。秋は、本当にあっという間でした。夏から秋にかけてずっと忙しかったこともあり、このままでは気づかないうちに秋が終わってしまうという焦燥に駆られ、ようやく時間の空いた週末、思い立って東京都町田市の七国山(ななくにやま)を訪れてみました。
標高128.5メートルの深山幽谷
「山歩きなんて何が楽しいのかしら?」と思っていた私ですが、実はここ数年、年末年始の休みにはハイキングをするのが恒例になっています。
でも所詮はズブの素人。山に慣れた感じのハイカーとすれ違ったりすると、口では爽やかに「こんにちはー」って言いながら、心の中では「なんかスミマセン私みたいのが」と気後れ。歩いてるだけで迷惑掛けてるんじゃないかと思いながらせっかくの山を歩くのもつまらないので、ここはひとつレベルアップを図ろうと登山経験のある人に「初心者におすすめの山は?」と聞いてみると、東京近郊でよく勧められるのが高尾山や御岳です。が、そこはもともとが「山歩きなんて何が楽しいのかしら?」の人。実際に御岳から日の出山というコースを歩いてみましたが、私くらいの体力と経験ではまだちょっとハードルが高い。そりゃそうです。ちゃんと登山をする人は、ここまで低レベルな人に向く山なんて知らないんです。
そこで自力で調べて目星をつけたのが七国山。標高は128.5メートル。「それって山?」と笑われても結構。ザクザクと枯れ葉を踏みならしながら、土の道を歩ける森が広がっていれば、それで私には十分に山です。事実これまで行ったどの山よりも静謐な場所だったかもしれません。一度も人に会うことはなく、思っていた以上に深山幽谷の風情を堪能できました。満足です。
すべての道が鎌倉に通じていた時代の幹線道路
今井谷戸というバス停をスタート地点に選び、まずは住宅地を抜けて山を目指します。こんもりとした森が見えてくる頃に後ろを振り返ると、遠くまで町を見渡すことができます。やはり山なのです。舗装が途切れて土の道になると、森が一気に深まっていきます。
七国山のメインストリートは「鎌倉古道」。鎌倉時代の御家人は、有事ともなると幕府の置かれている鎌倉にいち早く馳せ参じなければなりませんでした。そのために整備された道路網のなかでも幹線と言えるのが今では古道となったこの道。馬がすれ違う必要があったため当時の道幅は6メートルとかなり立派な道だったようですが、800年という歳月を経た今、すっかりのどかな里山の道になっています。枝道はもう獣道くらいの幅しかありません。山肌は枯れ葉とドングリに覆われています。そんな森の中を1時間ほど彷徨いました。
前日に雨が降っていたのですが、土の表面がちょっと滑りやすいところさえ気を抜かなければぬかるみもほとんどなく、いつまでもいつまでも歩いていられそうでした。逆に疲れたらすぐにコースアウトできるというのも安心です。どの方角に歩いても20分くらいで舗装道路に出ることのできますから。いや、もっとたっぷり歩きたいぞという場合は、近隣の野津田公園、小山田緑地とセットで計画を立てるのもいいでしょう。
多摩丘陵から狭山丘陵方面に向かって伸びていたこの鎌倉古道一帯には、武蔵野の自然が残る緑地帯がほかにも数多くあります。週末の散策をあと何回か重ねて靴を馴らしたら、いよいよ奥多摩まで足を伸ばしてみようかなと思っています。
ところで読んでいて気になっている方もいるかと思いますが、「となりのトトロ」でサツキ・メイ姉妹のお母さんが入院している病院があったのも七国山。同じ字を書きますがこちらの「しちこくやま」のモデルとなったのは狭山丘陵に位置する「八国緑地」だそうです。