夏みかんスライス(山口県)2013.12.27 /food
700年余り続いた武士の世が終わり、身分制度も価値観も大転換を遂げた世界で生きることを余儀なくされた士族たち。山口県・萩の武士たちが活路を見いだして始めた夏みかんづくりは、後に萩の名産へと成長していく。
ラストサムライたちの夏みかんづくり
討幕運動の急先鋒として、また明治政府の要として数多くの政治家を輩出した長州藩は、藩祖・毛利輝元が指月(しづき)山の麓に築城した萩城を藩庁としていたことから、「萩藩」の別名を持つ。城下町として栄えた萩だが、幕末になると藩主の毛利敬親が藩庁を山口に移転。さらに明治維新後に行われた秩禄処分により旧武士である氏族は代々受け継いできた俸禄を廃止され、萩の経済基盤は大打撃を受ける。職を失った士族への救済措置として、藩は彼らに広大な土地を与え夏みかんの栽培を奨励した。山口県は日本における夏みかんの経済栽培発祥の地である。
やがて夏みかんと城下町の白壁は萩を象徴する風景となり、かつては生産量でも全国一を誇っていたが、他の地域でも栽培が行われるようになると売り上げも落ち込み、栽培面積も減少していく。さらに夏みかんより糖度の高い甘夏みかんの登場により山口以外の地域では栽培の切り替えが進み、昔ながらの夏みかんは、甘夏みかんをはじめとする新種の甘い柑橘類や輸入果実に取って代わられる。
そこで萩市と商工会、観光業界などが一丸となり2009年「萩・夏みかん再生地域協議会」を設立。夏みかん生産の担い手育成や情報発信、商品開発などを目的として開設した「萩夏みかんセンター」で各種イベントやワークショップを実施するなど、風前の灯火となった萩の夏みかん復権に向けて動き出した。
萩発・新食感の夏みかんスイーツ
そんな「萩の夏みかん」を使ったユニークな商品を、山口県のアンテナショップ「おいでませ山口館」で見つけた。柚子屋本店の「夏みかんスライス」は、1個の夏みかんから数枚しか取れない果皮と実の間にある白い部分をスライスし集めてシロップに漬け込んだ、コンフィチュールやマーマレード、缶詰のみかんとも違う新感覚の瓶詰だ。原材料は萩産夏みかんとグラニュー糖のみ。瓶の中で整然と重ねられたスライスの層が美しく、見た目のインパクトもある。
夏みかんと聞いて想像していた苦みはなく、すっきりとした甘さと爽やかな香りが際立つ。バターを塗ったトーストやスコーンに乗せて食べてもおいしいし、ヨーグルトに添えたり、ソーダに入れてもいい。甘すぎないのでもちろんそのままでも食べられる。夏みかんの香りが溶け込んだシロップは、紅茶に数滴垂らしたりフレンチトーストの卵液に混ぜたりしても楽しめそうだ。
「萩の空から 萩の土から」をモットーとする柚子屋本店では、あえて効率の低い少量生産方式をとり、手間暇を惜しまず萩の柑橘本来の味を生かした商品づくりを行っている。こうした素材を大切にしたアイデアあふれる商品づくりも、萩の夏みかん復活に貢献していくことだろう。
information
柚子屋本店
- WEBサイト
- http://www.e-yuzuya.com/
- 住所
- 山口県萩市椿東字奈古屋1189
- TEL
- 0838-25-7511
- FAX
- 0838-25-6311
おいでませ山口館
- WEBサイト
- http://www.oidemase-t.jp/
- 住所
- 東京都中央区日本橋2-3-4日本橋プラザビル1階
- TEL
- 03-3231-1863
- FAX
- 03-5205-3387