オイル・ルージュ(山口県)2014.03.20 /food
「獲れてもほとんどその土地の人だけで食べてしまうため一般には流通しない魚」なんて言われると弱い。小さすぎる、骨が多く食べづらい、味はいいけど鮮度が落ちやすく輸送が難しい、などいろいろな理由でよそには出回らない地魚。山口県の萩市には、こうした魚に新たな価値を持たせて商品化する取り組みがあった。
“スター魚”の陰で目立たない脇役に光を
常々「雑魚(ざこ)」という言葉は字面がずいぶんだなあと思っていた。「粗末」「取るに足らない」かどうかは人間の勝手な都合であって、お魚さんは日々一瞬一瞬を懸命に生きているだけだよ! と。
日ごろからマフグやアマダイ、ケンサキイカといった萩の“スター魚”の陰でそんな脇役扱いの憂き目に遭っている地元の魚をもっと日本中の人に知ってほしい、食べてほしいという思いからスタートしたのが、「萩の地魚もったいないプロジェクト」。知名度はないけれど、オリジナリティのある萩ならではの地魚にスポットを当て、魅力ある特産品に育てる試みだ。
日本海有数の漁場に恵まれた萩港。四季を通じて水揚げされる250種類もの魚の中から“隠れたアイドル”発掘第一号に選ばれたのが「金太郎」だ。
金太郎とはヒメジの萩や下関での呼び名。体表の美しい薄赤色があの前掛けを思わせるためといわれる。体長15センチほどの小さな魚で、冬の魚ではあるが通年獲れ食味もあまり変わらないため、昔から萩市民に親しまれてきたという。
萩市は全国でも有数の金太郎の漁獲量を誇るが、とはいえ年間約70トンと都市部へ流通するほどはなく、今まではほとんど市内の飲食店や家庭で消費されるだけだった。
金太郎がフランス料理に使われる高級魚「ルージュ(Rouget de vase、ルージェとも)の近縁種であることや、その特徴的な色味に着目し「Japan Rouge(ジャパン ルージュ)」というブランド名を付けPRを開始。オイルサーディンのように手軽に食べられるようキャノーラ油に漬け「オイル・ルージュ」として売り出した。
“日本のルージュ”をいただく
食欲をそそる色に引かれて買ったオイル・ルージュを、ぎゅうぎゅう詰めになった瓶の中からそっと取り出す。最初は適当に散らしたベビーリーフとジャガイモの上に乗せてそのままいただいてみる。オイル漬けというからもっと油っぽいのかと思ったらそんなことはなく、調味料も塩とコリアンダーしか入っていないので魚そのものの味が伝わってくる。しっとりと柔らかい白身は淡泊だけど上品で甘みがある。
続いてはシンプルにペペロンチーノのスパゲッティーニで。皮目の薄赤色が見た目に彩りを添える。あらかじめソテーしてカリカリ感を出すと食感と香ばしさも増してよりおいしい。
魚のうまみが染みた漬け油で米を炒めて、ほぐしたオイル・ルージュを混ぜて洋風炊込みご飯にしても合うかもしれない。あっという間に一瓶空けてしまったが、リピートすることがあったら試してみたい。
オイル・ルージュをはじめとするさまざまな商品開発や有名シェフとのコラボレーション、築地市場でのアンテナショップなどを展開した5カ年計画のプロモーションが実を結び、「萩の地魚もったいないプロジェクト」は、2013年の「FOOD ACTION NIPPON AWARD」で流通部門の優秀賞を受賞。さらにオイル・ルージュは、観光庁が主催する「世界にも通用する究極のお土産」にも選定された。地方のマイナーなアイドルが、地元の熱烈な応援に支えられて一躍全国区に躍り出たというわけだ。
同プロジェクトが開発した商品は金太郎のほかにも、平太郎(オキヒイラギ)や瀬付きアジのオイル漬け、スルメイカをたっぷり使ったXO醤などが販売されている。こんなふうに地方の知らない地魚が加工品で味わえるのはうれしいものだ。もちろん、本当は産地に出かけて食べるのがベストなのだけど。
※オードブルに使用した石皿は、宮城県石巻産雄勝石のプレートです。「雄勝硯石プレート」に関する記事はこちら。
information
萩の地魚もったいないプロジェクト
道の駅/萩しーまーと
- WEBサイト
- http://seamart.axis.or.jp/
- 住所
- 山口県萩市椿東4160-61
- TEL
- 0838-24-4937
- FAX
- 0838-24-1192