WEBでちょい旅 一厘録 ICHIRINROKU

雑木囃子(神奈川県)2014.07.15 /zakka

箱根と木工細工との関わりは古く中世にさかのぼる。江戸時代後期になり、従来の技法を応用して小田原箱根土産の定番「寄木細工」が生まれた。以来脈々と受け継がれてきた伝統工芸の世界に、若い作家たちが新しい風を吹き込もうとしている。

伝統に“プロダクト”としての魅力をプラス

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とあるデパートの催事で見かけた寄木細工の小物たち。その中にあった高さわずか5.5センチの小さな引き出しに目が釘付けになった。

前板にあしらわれているのは雲と富士山。引き手は一段目が太陽、二段目が雲の形をしている。細部にわたる遊び心にときめいた。かわいい。理屈抜きでかわいい。ドールハウス好きの気持ちが少し分かる。ほかに出品されているカードケースやボタン、マウスパッドなども、樹種による色の違いを利用して絵や柄を表現する寄木の技法を用いながら、モダンなデザイン性が加味されている。

これらは小田原・箱根の寄木細工に携わる若手作家たちが2005年に立ち上げたグループ「雑木囃子(ぞうきばやし)」の作品。店頭でご説明いただいた清水勇太さんの「色木編みコースター」も魅力的だったが、最年少メンバー石川裕貴さんの「一寸引出」に一目惚れしての“お持ち帰り”となった。部屋のあちこちに置いて眺めてみたり、中に何を入れようかと考えたり、あいくー師匠に再度ご登場いただいたりといろいろ楽しんでいる。

現在、石川裕貴さん、太田憲さん、小島裕平さん、篠田英治さん、清水勇太さん、露木清高さんの6人で活動する雑木囃子は、伝統的な技法を守るだけでなく、外部のプロダクトデザイナーに指導を仰ぐなど、現代的な視点も取り入れて今のライフスタイルに合った新しい寄木細工づくりに挑んでいる。さらに地元はもちろん東京や大阪などでも作品展示を積極的に行い、自分たちの活動を広く発信してきた。

2011年9月にはパリの国際見本市「メゾン・エ・オブジェ」に出品。海外のバイヤーから高い評価を得ている。以前美術館で明治工芸の超絶技巧を見たときも感じたが、コンテクスト抜きですごさが伝わる技術というのは、言語を超えた普遍性を持っているのだと思う。

小田原・箱根で進化した木工の技巧

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寄木細工は、江戸時代後期に畑宿の木地師(木の加工品を作る職人)石川仁兵衛がさまざまな色の木を組み合わせて美しい模様のお盆や木箱を創作したのが始まりといわれる。明治中期に入ると、ここに木象嵌という技術が加わる。糸鋸で色違いの木から図柄を挽き抜き、土台となる板にはめ込んでいくもので、それをかんなで薄くスライスした「ヅク」を小箱などに貼り合わせるのだ。

寄木細工以前にも、「箱根細工」「湯本細工」などと呼ばれる木工芸品はこの地方の名産だったが、これらを有名にしたのが、箱根八里の街道と箱根七湯。かさばらない箱根細工の玩具や小箱などは持ち歩くのに好都合で、多くの旅行者や湯治客が土産として買い求めた。あのマトリョーシカも箱根細工がモデルといわれている。明治時代、湯本にあったロシア正教会の神父たちが帰国する際に「七福神」や「十二たまご」といった入れ子の玩具を持ち帰ったのだそう。

江戸・明治の木地師たちは、互いに競い合うように寄木の技巧を発展させていったという。雑木囃子もまた、6人だからこそできることに取り組みつつ、一人一人がよきライバルとなって技を高め合い、これからの新しい寄木の流れを作っていくのかもしれない。

ライター:和泉朋樹

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雑木囃子

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