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若桃の甘露煮 ピチピチピーチ(福島県)2016.02.18 /food

毎年2月に福島市の信夫山(しのぶやま)で行われる「信夫三山暁まいり」。長さ約12メートル、重さ約2トンの巨大なわらじを100人もの人々が担いで羽黒神社に奉納します。この江戸時代から受け継がれる例祭にちなんで名付けられたのが、福島を代表する桃「あかつき」です。

“桃になれなかった桃”おいしくデビュー

若桃の甘露煮 ピチピチピーチ

「あかつき」のおいしさに衝撃を受けて以来、わが家ではすっかり桃と言えば福島県です。「あかつき」は適度に硬さがあって、とにかく甘いのが特徴。品質に見合ったお値段なのでそうちょくちょく買うことはできませんが、「たまの贅沢なら」と毎年シーズンになるのを楽しみにしています。
福島県の2014年度の桃収穫量は2万9300トン、シェアは21%で山梨県に次ぐ堂々の2位。「あかつき」のほかにも「暁星」や「川中島白桃」などさまざまな桃が生産されており、どれも引けを取りません。

こうしたブランド桃は手間暇かけて大事に育てられますが、その過程でまだ青く親指ほどの大きさの頃に間引き(摘果)をします。そうすることで残りの実に栄養がたくさん行き渡り、より大きく甘くなるというわけです。
摘み取られた青い実は、従来はそのまま捨てられていました。これを有効活用したのが、伊達市にある漬け物製造業「あぶくま食品」の「若桃の甘露煮(ピチピチピーチ)」です。

使われている品種は「あかつき」をはじめ「白鳳」「まどか」そして「川中島白桃」と「あかつき」を掛け合わせた「なつっこ」。地元伊達市や県トップの収穫量を誇る福島市、「献上桃の郷」として知られる伊達郡桑折町(こおりまち)となど県北を中心とした契約生産者が育てた桃の未熟果を甘露煮にしています。

見た目はまるで梅酒の青梅のよう。鮮やかなグリーンですが、着色料や保存料は一切使われていません。サクサクした食感で、かじるとほんのりと桃の香りが鼻をくすぐり、「ああこのまま育てば君も立派な桃になっていたかもね」なんて思ったり。種はちょうど梅干しの種の中にある天神様(種子の核)のような柔らかさで、特許を取得した独自の加工技術によってなんと種ごと食べられます。そのままはもちろん、ケーキの上に乗せるなどお菓子の材料としても使えますし、お弁当の隅っこに1つ入れておくと、ちょっとした食後のデザートになります。シロップが入っているので、刻んだ実とゼラチンを混ぜてクラッシュゼリーにしてみました。サイダーに浮かべるととっても涼しげ。お酒を飲む人はカクテルに1つ沈めてみてはどうでしょう。

負けるな、福島の桃たち

若桃の甘露煮 ピチピチピーチ

あぶくま食品は2008年、中小企業地域資源活用法に基づく地域産業資源活用事業の認定を受け(※以前ご紹介した「にしんのおかげ」もこの制度を利用して開発されました)、福島大学と産学連携で商品開発に着手。翌年「若桃の甘露煮」を発売しました。食品産業センターが主催する同年度の「優良ふるさと食品中央コンクール」で農林水産省総合食料局長賞も受賞し、まさにこれからという時、東日本大震災と原発事故が発生します。同社の工場は被災しましたが1カ月後には生産を再開。もちろん震災以降、原料から工場水、製品に至るまで放射性物質の検査を定期的に行い、常に安全性を確認してから出荷しています。
厳しい検査と目に見える情報開示、地道なPR活動など、生産者や県が行ってきた取り組みが実を結び、震災直後に大きく落ち込んだ県産桃の取引価格も回復傾向にあるといいます。

東京・日本橋にある福島県のアンテナショップ「日本橋ふくしま館 MIDETTE」は、2014年のオープン以来いつもたくさんの人で賑わっています。信頼回復に力を尽くす人たちに応える意味でも、変わらず気負わず、「良いものは良い」の姿勢で買い続けて行きたいものです。
桃の旬はまだ先ですが、「若桃の甘露煮」なら一年を通じて楽しめます。淡く爽やかな若桃の風味を味わいながら夏を待つこととしましょう。

ライター:和泉朋樹

information

あぶくま食品

WEBサイト
http://www.abukumafoods.co.jp/
住所
福島県伊達市保原町清水町34番地2号
TEL
024-575-1171
Mail
abukuma@olive.ocn.ne.jp
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