ニックナック(岩手県)2013.05.07 /food
「Ora et labora(祈れ、そして働け)」という言葉の通り自給自足の生活を原則とする修道院には、ビールやワイン、ジャム、バター、チーズといった食品の製造を行っているところも多い。岩手県盛岡市にある盛岡ドミニカン修道院(ドミニコ会ロザリオの聖母修道院)の修道女たちがかつて作っていたドミニカンクッキーも、長きにわたって地元の人々に親しまれていた。惜しまれつつも一度はその歴史に幕を閉じた伝統菓子を復活させたのは、地元の障害福祉施設だった。
伝統と郷愁の焼き菓子、復活
ベルギーのディナンから盛岡にやってきた6人のドミニコ会修道女が、盛岡内丸教会の中に仮設の女子観想修道院を開いたのは1936(昭和11)年のこと。3年後、当時「上田蝦夷森」と呼ばれていた緑が丘4丁目に「盛岡ドミニカン修道院」を建設した。終戦後、修道女たちは日々の祈りの傍ら焼き菓子づくりを始める。修道院特製のドミニカンクッキー「ニックナック」は、地元盛岡の人々に愛される“郷里の味”となった。 しかし修道女の減少や高齢化などの問題もあり、ニックナックは2005(平成17)年に惜しまれつつも製造中止となってしまう。
それから2年後、社会福祉法人・岩手県手をつなぐ育成会が運営する障害福祉サービス事業所「あすなろ園」が、この伝統菓子を復活させるために製造機材やレシピを引き継ぐ。修道女の指導の下4年間試行錯誤を繰り返し、2011(平成23)年ついにニックナックを復活させた。復刻版の完成試食会では、参加者から「懐かしくておいしい」という声が上がったという。 盛岡ドミニカン修道院は、1987(昭和62)年に南部片富士湖のほとりへ移転したが、緑が丘の跡地に開業した商業施設「アネックスカワトク」でも、復活したニックナックを取り扱っている。
結局、シンプルがいちばん
ニックナックの見た目はベルギーワッフルそっくりだが、一口かじると確かに歯ごたえはクッキーである。小麦粉や砂糖、バター、卵、牛乳などごくごくベーシックな素材の味がダイレクトに伝わる、素朴で飽きのこない味。初めて食べるのにとても懐かしい。ついつい2枚3枚と続けていきたくなる。紅茶との相性もいいが、牛乳にも合いそうだ。カリスマパティシエの作る贅を凝らしたスイーツもいいけれど、こういうお菓子が戸棚の中に常備されているとやっぱりほっとする。シンプルなものほど奥が深いとよくいわれるが、ロングセラーとはそういうものなのかもしれない。
ところで、「ドミニカンクッキー」「ニックナック」と聞いて「え?香川のお菓子じゃないの?」と思った人もいるかもしれないが、現在香川県高松市で同じくニックナックを製造している「ドミニコ会神の母マリア修道院」に焼菓子づくりを伝えたのも、盛岡の修道女たちである。盛岡のニックナックが復活したので、二つを食べ比べてみるのもいいかもしれない。 お試しで買った6枚入りのパックは、人に配ったりしてあっという間になくなってしまった。また食べたくなってきた。今度は27枚入りの方にしようか。
information
岩手県手をつなぐ育成会 あすなろ園 あすなろ屋飯岡店
- WEBサイト
- http://i-asunaro.jp/index.html
- 住所
- 盛岡市下飯岡11地割130番地5
- TEL
- 019-639-8373