ルルロッソ(北海道)2013.04.23 /food
「麦チェン!」という事業がある。北海道内で使われる小麦を輸入物から道産小麦へと転換していこうという、国内生産量の60%以上を占める農業王国ならではの試みだ。そんな中、食の宝庫・留萌で5年前、異色の小麦づくりがスタートした。日本海に沈む夕日のように真っ赤に燃え上がる生産者たちの思いを背負ったその小麦の名は「北海259号」だ。
どこにもない、留萌ブランドの小麦づくり
北海道農業研究センター(北農研)が開発した「北海259号」は、グルテンが多くでんぷん質が硬い「超強力小麦」。パスタに使われるデュラム小麦によく似た性質の、現在日本で栽培可能な最も硬質の小麦だが、北海道の小麦優良品種(栽培奨励品種)としては認められていない。収量性が低く、病害虫に弱いためだ。
一度は「落ちこぼれ」のレッテルを貼られたこの小麦に唯一注目したのが江別製粉。その品質に可能性と将来性を感じ、北農研とともに栽培と研究を続けた。
一方、農家の高齢化と担い手不足が深刻な留萌地方では、若手生産者たちが農業生産体制の効率化を図るために小麦生産を進めようと模索していた。「麦チェン!」事業の主力は、優良品種を大規模栽培する日本最大の小麦の産地・十勝。同じことをやっても留萌らしさは出ない。留萌にしかできない独自の「麦チェン!」に乗り出した留萌振興局とJA南るもいは、江別製粉と酪農学園大学の協力で2009(平成21)年に「北海259号」の試験栽培を開始する。硬質小麦の特性を生かしたパスタを作るのは、留萌市のフタバ製麺。「地元の小麦で商品を作りたい」と切望していた同社にとっても、「北海259号」との出会いは運命的だったことだろう。
研究者と生産農家、製粉・製麺業者、そして地元の飲食店が集まり、翌年「留萌・麦で地域をチェンジする会」が設立された。産学官一丸となった取り組みは2011(平成23)年ついに実を結ぶ。完成した小麦粉とパスタは、アイヌ語で留萌を意味する「ルルモッペ」と、留萌の夕日からイメージした赤を表すイタリア語「ロッソ」から、「RuRu Rosso(ルル ロッソ)と名付けられた。漢字で書くと「留々夕麦」。留萌のシンボルである美しい夕日に映え、潮風にたなびく小麦をイメージしている。
会の熱心なPRと、今までのどの国産小麦とも違うオンリーワンな品質が評判を呼び、東京や札幌でもルルロッソをメニューに加える店は増えつつある。さらにバイヤーや料理関係者など“食の達人”たちがすぐれた道産食品を推薦する「北のハイグレード食品2013」にも選ばれた。
想像以上の歯ごたえとコシにびっくり
有楽町の「北海道どさんこプラザ」でフィットチーネが手に入ったので、「ボロネーゼ」と「桜こあみとキャベツのペペロンチーノ」で試してみた。ボロネーゼは濃厚なミートソースにも負けない麺の強さを、ペペロンチーノは小麦のうまみをダイレクトに楽しめた。モチモチを通り越してコチコチという独特の歯ごたえとコシ、しっかりとした小麦の香りと甘味を感じる。レストランで食べるのもいいが、まずは生のルルロッソを買って自宅でお好みのパスタを作ってみてほしい。
たった1戸の生産農家、わずか0.5ヘクタールの畑から始まった小麦づくりは、今では8戸9ヘクタールにまで広がった。大産地に比べればまだまだ作付面積は小さいが、さらに研究が進んでコストが下がれば生産農家も増え、値段ももっと手頃になるだろう。いずれはデュラム小麦に代わる“メイド・イン・ジャパン”のパスタとして普及し、「パスタといえば留萌」と言われる日が来るかもしれない。
※「桜こあみとキャベツのフィットチーネ」に使用した岩手県の「桜こあみ」に関する記事はこちら。