WEBでちょい旅 一厘録 ICHIRINROKU

殿様のだだちゃ豆(山形県)2013.07.02 /food

子供のころから酒の肴が大好きで、飲みもしないのに親がうまそうに食べているおつまみを「ちょうだい」とねだっていた。大人になった今でも酒は弱いので、飲み会などの席ではもっぱら「下戸の肴荒らし」である。夏のおつまみの定番・枝豆も好物だが、僕だけビールも飲まずひたすらぷちぷち、ぷちぷちと口に放り込むのだから、つまみのバランスを考えながら飲んでいる人にとっては迷惑な話だろう。

うまみと滋養たっぷりの“夏アテ”代表格

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枝豆といえば、初めて「だだちゃ豆」を食べたときその香りと味の濃さに驚いた覚えがある。だだちゃ豆とは単なる品種のことで種子さえあればどこでも栽培できるのかと思っていたが、どうやら違うようだ。山形県、それも庄内地方(鶴岡市)のごく限られた地域でしか生産されていない在来種で、同じ種子でもほかの場所で栽培したものは食味が変わってしまうらしい。四季の変化が明確で昼夜の温度差が激しく、水の吸収がよい砂土壌が多いこの辺りの環境と深いかかわりがあると考えられている。

くびれの深い莢(さや)と茶色の産毛が特徴で、一般的な枝豆に比べて1つの枝に付く莢の数が少なく、莢も2粒莢が多いため、1粒1粒に甘味とうまみが凝縮されている。またシジミを上回る量のオルニチンを含み、神経伝達物質のGABA(γ-アミノ酪酸)や、うまみ成分であるアミノ酸の一種アラニンなども豊富だ。

“酒井の殿様”も惚れ込んだおいしさ

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「だだちゃ」は庄内地方の方言で「お父さん」「親父」という意味。その昔、庄内藩主・酒井家の殿様が、献上された鶴岡の枝豆を食べていたく気に入り「これはどこのだだちゃが作ったのか」「あのだだちゃの豆が食べたい」と言ったことからその名が付いたといわれている。あくまで諸説あるうちの一つだが、JA鶴岡ではこの説を採用しているようだ。

「おいしい枝豆」として徐々に知られるようになった20年ほど前から、ほかの地域で作った味の異なる類似品が出回るようになる。鶴岡のだだちゃ豆は、その年に採れた豆から特に優れた種子だけを選りすぐり、それを育ててまた選別し…という、生産者のたゆまぬ努力の積み重ねによって作られたもの。先人たちが育んできたブランドイメージを守り後世へと受け継いでいくため、JA鶴岡は1997(平成9)年に商標の専用使用権を取得。現在「鶴岡地域だだちゃ豆生産者組織連絡協議会」が認定する白山、小真木、甘露など9系統だけが「だだちゃ豆」を名乗れるようになっている。

だだちゃ豆の旬は7月下旬〜9月のごく限られた期間だが、JA鶴岡のショッピングサイト「だだぱら」で販売しているフリーズドライなら、いつでもどこでも手軽に味わえる。食べてみると独特の香ばしさも生きていて、噛むほどに塩ゆでにも負けないしっかりとしたうまみが口いっぱいに広がる。程よい塩味が後を引き、食べる手が止まらない。これはもう断然ビールでしょう(僕は飲めませんけどね)。

「だだぱら」ではほかにもだだちゃ豆を使ったさまざまな加工品を販売している。お酒にうどん、かまぼこ、カレー、せんべい、ようかん、アイスクリームにプリン、ロールケーキと、変幻自在のマルチプレーヤーっぷり。次はこういう変わり種にもチャレンジしてみたい。

ところで、8月8日は「だだちゃ豆の日」だそう。理由は、だだちゃ=お父さん=パパ(88)で、なおかつ8の形が2莢のだだちゃ豆に似ているから、そして何よりだだちゃ豆のおいしい季節だから。どうせ食べるならいつもの「枝豆にビール」をちょっとアップグレードして、とびきりおいしい枝豆の王様、いや殿様をお試しあれ。

ライター:和泉朋樹

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