いぶりがっキー(秋田県)2013.07.22 /food
漬け物のことを秋田では「がっこ(雅香)」とも呼ぶ。香り高い発酵食品にふさわしい呼び名といえる。そこに燻製のかぐわしさが加わったのが「いぶりがっこ(いぶり漬け)」だ。「燻した漬け物」という意味を持つ秋田の名産品には、雪国ならではの工夫が生きている。
いぶりがっこの味に最初は戸惑う
通常、たくあんはぬかに漬ける前に天日干しをするが、秋田県の内陸部は日照時間が短く雪が降り始めるのも早いため、秋採れの大根を干すのに十分な日数を得られない。そこで考え出されたのが、天井につるして囲炉裏の熱と煙でじっくりと乾燥させてから米ぬか、ざらめ、塩、唐辛子などで漬け込む方法。厳しい自然条件から生まれた保存の知恵だ。
いぶりがっこの存在を知ったときは、そんな誕生の経緯も知らず「漬け物も燻製も好きだけど、なにも一緒にしなくても…」と思ったものだ。君たちにはお互いにもっとふさわしい相手がいるんじゃないか? ほんとにこれでいいのか? と「ぬかと煙のマリアージュ」に野暮な横やりを入れたくなったのである。
しかも初めて食べたのは、とある隠れ家的ダイニングで出された「いぶりがっこのクリームチーズ添え」。連れていってくれた業界の大先輩女史曰く「いぶりがっことクリームチーズって意外と合うのよ」とのことだったが、いぶりがっこ自体が初体験なわけで何がどう意外なのかもよく分からず、一口食べても案の定「ああ、へぇ、うん、なるほど」という薄ぼんやりしたリアクションしか返せなかった。それから数度食べる機会があって、味に慣れたのか味覚がこなれたのか、次第においしさが分かってきた。
カリッ→しっとり、の不思議な食感
秋田県湯沢市にある伊藤漬物本舗は、野菜の洗浄から漬け込み、加工、包装までのすべての工程を手作り・手作業で行っている会社。食卓では常に脇役の漬け物をもっといろいろな場面で楽しんでもらいたいという思いで、新製品の開発や料理のアレンジ提案をしている。そうした試みの中から生まれたのが、伝統的ないぶりがっこを食べやすくスティック状にして乾燥させた「いぶりがっキー」だ。
大根(もちろん秋田県産!)をはじめ、原料はいぶりがっこと全く同じで余計なものは加えられていない。一見するとスナック菓子のような箱に入っていて、開封したては手でぽっきりと折れるので元が漬け物とは思えないが、かむとすぐにしんなりしてきて、うまみがじわじわ染み出てくる。徹底的に乾燥させているからなのか、ぬかやスモークのにおいは抑えられていてとても食べやすい。正直、個人的にはいぶりがっこよりこっちのほうが好みかもしれない。
また「開封後しばらく時間をおいてから食べるとしっとりと柔らかくなる」という説明書き通り、数分たつと確かに少し漬け物っぽいしなやかさが戻ってくる。時間差で違う食感を楽しめるのが面白い。
酒のつまみやお茶請けにはもちろん、細かく刻んで料理にも使えそう。今度リピートするときは、お茶漬けやチャーハン、ミルクリゾットなどに入れて試してみたい。
味は濃いけど1本、また1本と手が伸びる。食べれば食べるほどハマる味。「いぶりがっキー」は今までにない新感覚の漬け物スナックだ。
information
伊藤漬物本舗
- WEBサイト
- http://www.ito-tsukemono.co.jp/
- 住所
- 秋田県湯沢市角間字白山下26
- TEL
- 0183-73-7716
- FAX
- 0183-72-6823