WEBでちょい旅 一厘録 ICHIRINROKU

缶詰が好きで、中でも安くてその上栄養豊富なサバ缶（水煮）は何かと重宝している。今年はテレビの影響で「サバ缶ダイエット」なるものがはやり店頭からサバ缶が一時姿を消したが、そんなブームとは関係なく昔からサバ缶は庶民の味方なのだ。

サバ缶好き、フードファディズムに怒る

サバは水煮缶であれば、そのまま食べるだけでなくいろんな料理にアレンジが利く。脂ののった腹子の部分はアツアツのご飯に乗っけて少し生姜醤油を垂らしてから豪快にかき込む。身のしっかりとした背肉はパスタの具に使ったり、野菜と炒めてカレーにすることが多い。ツナ缶と同じようにマヨネーズと和え「サバマヨ」としてパンに挟むのもありだ。

サバ缶好きとしてはサバ缶の価値が注目されるのはうれしいが、メディアの情報に踊らされて売り場からサバ缶が消え買えなくなってしまうのは困る。そういうのはたいてい一過性のブームで終わり、そしてまた別の食品が「○○で痩せられる！」「○○で病気が治る！」と紹介され、みんな一斉に飛びつく。これの繰り返しだ。
こういう行動をフードファディズムと呼ぶが、その先にあるものが情報番組の捏造であったり食品偽装であったりするはずなのに、つくづく懲りないというか何というか。

閑話休題。そんなサバ缶好きの目にある日飛び込んできたのが、岩手県で作られた「サヴァ缶」だ。
明るい黄色のラベルに大きく「ça va？（サ ヴァ？）」と書かれている。まさかのド直球ダジャレだ。いやフランス語なのでこれも一種のフレンチジョークか。違うか。

「元気？」岩手から全国へごあいさつ

サヴァ缶は国産サバをオリーブオイルに漬けたもの。身はもちろん骨まで柔らかく丸ごと食べられる。オリーブオイルを使用しているからだろうか、しつこい油っこさもなくあっさりとしているが、サバのうまみがぎゅっと凝縮されている。
パスタとの相性も抜群。普通の水煮缶よりイタリアンな味付けに向いている印象を受けた。もちろん中のオリーブオイルも残さず使える。カロリーが気になる人はその分調理油の量を減らせば問題ないし、うまみがたっぷり溶け込んだスープを捨てるなんてもったいない。
1缶378円（税込）と少し値の張る“高級サバ缶”ではあるが、価格に十分見合うおいしさだと思う。

このサヴァ缶は、「東の食の会」と「三陸フィッシャーマンズ・プロジェクト」、「岩手県産株式会社」の三者による共同プロジェクトから生まれた商品だ。
「東の食の会」とは、東日本大震災によって被害を受けた地域の食品産業復興と長期的支援を目的に立ち上げられた団体。「東の食に、日本の力を。東の食を、日本の力に。」をキャッチフレーズに、東日本の生産者と食関連企業とのビジネスマッチングや新たな食関連事業の創造、PR支援などを行う。また風評被害などに対処すべく日本の食の安全・安心を世界に発信する活動も展開している。これまで飲食店や官庁・社員食堂などに東北の食材を使ったメニューを提供したり、東北産農産物のブランディング、東北産食材を使ったオリジナル食品の開発などを行ってきた。
その「東の食の会」がYahoo! JAPANとともに立ち上げたのが「三陸フィッシャーマンズ・プロジェクト」だ。水産業に携わる人たちがつながり東北の水産品に新しいブランド価値を与え、日本そして世界に発信することで、三陸から地域の誇りとなるような新しい水産業を創造しようという試み。三陸のフィッシャーマンたちの活動や旬のおすすめ、レシピなどを発信するほか、海の幸の直送サービスを通じて産地と食卓を結び、「顔の見える水産業」「参加できる水産業」を目指す。

普通のサバ缶のラベルには海やサバの写真などが入るものが多いが、サヴァ缶は大胆にデフォルメされたサバのイラストとロゴが一体化したポップなデザイン。「ça va？」の文字は、岩手から全国へ「サ ヴァ？（元気ですか？）」と呼びかけているのだそう。なるほど、単なるダジャレではなく「東の食を、日本の力に。」のキャッチフレーズ通り、震災から立ち上がり、三陸の水産業から日本を元気にしたいというメッセージが込められていたのだった。

サヴァ缶はネットで購入できるほか、東京なら「あまちゃん」のヒットで連日大盛況の岩手県アンテナショップ「いわて銀河プラザ」でも販売中だ。

ライター：和泉朋樹